2017/09
心の隙間を埋めてくれるのは

記録的な長雨の夏、お変わりなくお過ごしでしょうか。体調不良を感じた方も少なくなかったと思います。

我が家は軒下にスズメバチの巣が五つ見つかり、ハチ退治に追われました。無事、四つは退治できましたが、最後に残った一個には手こずりました。

それでも今朝は晴れ、うれしくなって早朝6時、散歩に出かけました。帰ってきて掃除機をかけ、シャワーを浴びてヨガと瞑想。それから執筆。こんなことがスムーズにできるのはお天気のせいです。曇り空や雨の日は気持ちもなんだか沈んで動くのが億劫になってしまいます。
 

そんな曇り空と雨の日々、心の隙間を埋めてくれるのはバッハの無伴奏バイオリン・ソナタ。バッハのバロックは赤ちゃんの成長にもいいと聞いたことがあり、なんだか気持ちが沈みがちな日は一日中、この曲をかけています。

難しい曲などではありません。
意味や情感とは無縁の、ただ澄み切った水のように流れ出してくるバイオリンの音色、それだけなのです。感傷的になったり、感動したりということもない、そんなバロック音楽はなんとも精神安定剤的な役割をしてくれます。心は静かになり、脳と細胞は光と風を浴びたかのようにただ喜んでいる、そんな状態になります。

演奏はヘンリク・シェリング。
第二次大戦中、ナチスの迫害を逃れてポーランド難民となり、演奏家としていろいろな国を旅しながら数年がかりでメキシコに逃れ、1946年国籍を取得、1954年にニューヨークでの演奏を機にその実力が評価され、1988年に亡くなるまで世界中で活躍した演奏家です。
 

それより以前、やはりユダヤ人演奏家でハイフェッツというバイオリニストがいました。百年に一人といわれるまさに天才で、その演奏は正確無比、硬質で無機質。それをCDで聞いていると、私はいつしか緊張してしまい、息苦しくさえなりました。ハイフェッツ自身が大変な完全主義者で潔癖症だったことやアスペルガー症候群だったのではないかという話を後になって知りました。

その点、ヘンリク・シェリングの演奏は正確無比ながらその音色の奥底には名状しがたい深い情感が漂っています。いくら聴いても飽きることがありません。悲しみなどという言葉では到底言い表せないもの、魂を揺さぶられるような感覚。彼の生きた軌跡とその深い思考が背景にあるからでしょう。
 

ところが今やテレビ、また映画の中にも大げさな動作や喚き立てるような過剰表現が溢れています。料理で言えば濃すぎる味付けで味覚が麻痺してしまう質のものです。静謐さや知性とはほど遠い世界。公共放送であるNHKの9時のニュースで、AKBの今年の優勝者が誰だとかアナウンサーが言うのを聞いたときは、ほんとうに世も末だと思いました。
 

50年前、「このままでは一億総白痴になる」と警告したのは大宅壮一氏。今やその予言が的中した感があります。アメリカの戦後政策『日本人意識腐食計画』(詳細:藤原正彦著『日本人の誇り』)。今やそれが現実となった感があります。江戸期、ヨーロッパから訪れた宣教師たちは、日本人は観念的なことや精神性というものに少しも関心を持たないと嘆いています。

戦前、アメリカの日本研究者・ベネディクトによって書かれた『菊と刀』は日本を一度も訪ねたこともないこの著者がどれほど深く日本を研究し尽くしていたか、驚くばかりの内容です。

『日本人意識腐食計画』は戦後72年たった今、みごとにその目的を達成したかにみえます。・・・しかし、この国のサイレント・マジョリティを甘く見てはいけないと思います。声高に、またメディアで発言することはなくとも、彼らはこの国に何が起きているか、しっかりと見ています。

2017/09/06 高瀬千図拝

 

2017/09
心の隙間を埋めてくれるのは
」への2件のフィードバック

  1. 魅せられたる魂、アンネットと検索したらこちらのブログにたどり着きました。あなたのようになりたいと思うも何だかんだと都会でサラリーマンをしている若者です。仕事終わり、家でくつろいでいる時間をより良いものにしていただきました。ありがとうございます

    1. ありがとう、共感してくれて。今の静かな暮らしは年齢を重ねたおかげです。若いときは午前2時まで仕事場にいたこともあります。いつかきっと静かな生活を望むならかならずそれはやってきます。

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