2018/01/06
ピアノの旋律が導く世界

雪の木立

皆さま明けましておめでとうございます。

例年にない寒さが続いていますが、皆さまお変わりありませんか。
今年の八ヶ岳は雪が少なく助かっています。雪が降ると気温が低いので、やがて凍ります。滑りやすくてとてもやっかいです。そうなると散歩に出ることもできないので、時々プールに出かけます。

そんな時、美しいドイツの毛糸に出会い、編み物に凝り始めました。考えるのに疲れた時、集中しすぎた後は編み物で手先を動かします。そうしていると自然に疲れた頭がすっきりしてきます。

それだけではつまらないので、テレビのドキュメンタリーや友達が送ってくれた面白い映画を観たりしながら冬の夜長を楽しんでいます。
 

そのドキュメンタリーで辻井伸行さんのデヴュー10周年のコンサートを聴きました。ラフマニノフのピアノ協奏曲は大好きな曲のひとつですが、彼の演奏は別格です。「音楽の神が彼に舞い降りて乗り移ったかのようだ」と言った指揮者もありました。
 

ちょうどリストの『ラ・カンパネラ』の演奏を聴いているときでした。

突然、自分がなにか別の生き物になったような気がしました。そのときのイメージはトンボになる前のヤゴ。それが水辺から這い上がって一本の葦に止まり、そして脱皮していく。脱皮した後は美しい透き通る羽を持つトンボになり、その羽を広げて日差しの中に飛び立っていく、そんなイメージでした。

トンボは草原の上を、水辺を軽やかに飛び続けます。自由で心地よくて、重力から解放されたような不思議な感覚でした。水の中で鎧のような殻をまとった一匹の虫。それが時を得て、美しい羽を持つトンボになり、青空を自由に飛び回る。

それはまさに辻井さんのピアノの旋律が導いてくれた世界でした。
 

これほどの演奏ができるのはたくさんの優れたピアニストの中でも辻井さんだけだろうと思います。
なぜなら彼のどこにもエゴというものが感じられないからです。無防備と言ったらいいでしょうか。彼のように生き、彼のように音楽を表現できる人を他に知りません。
 

それに比べれば我が身のなんというとらわれようだろうと思います。
傷つくまいとして身構えていたり、知らないうちに肩に力が入っていたり、いくつになってもなかなか心の鎧を脱ぐことができません。

頭では理解できているつもりが、体は心と一緒に無意識に反応してしまい、ダメージを受け、数日寝込むことも珍しくありません。

心が傷つくといつも心臓の痛みという具体的な症状になって現れます。なんとも情けない私がいます。

『生きることは傷つくこと』と言ったのはクリシュナムルティ。
そうは言ってもいくつになっても年甲斐もなく強くはなれない私に、辻井さんのピアノは「あなたは今のあなたのままでいいんです」と言ってくれているような気がしました。
 

新しい年がどうぞみなさまにとって良き一年となりますように。

2018/1/6 高瀬千図拝

 

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