2018/01/14
カラスのクロベエ

二、三日前に降った雪が地面を覆っています。二センチくらい。このところ晴れが続き、気温は氷点下14度まで下がりました。雪は氷の結晶になって朝日がさすとダイヤモンドを砕いて敷きつめたような庭にオレンジ色や赤、サファイヤ色の結晶が輝きます。なんとも豪華な朝の景色。
 

数年前から群れから離れたカラスが我が家の庭にやってくるようになりました。すぐに気づいて話しかけたのは猫のプージャ。カラスをみると小さい時からいつも話しかけていました。

喉の奥で「クク、カカ」と鳴きます。声とも音ともつかないのですが、カラスはカラスで怖がりもせず少し距離をおいてプージャを見ていました。

このささやかで静かな交流は数年続き、やがてプージャは20才で旅立ちました。

最期の二日間、元気なときのように庭に出たがり、ゆっくりと休み休み家の周りを歩きました。すべての風景を記憶に残そうとするように。大好きな小川にも降りました。自分で降りられなくて、私に降ろしてと頼みました。小川の水を少し飲んで、「帰る」と。そして翌日、私の腕の中で眠るようにゆっくりと旅立っていきました。

こんなに悲しいことはありませんでした。

この森で二人で暮らした十数年、寝るときもいつも一緒でした。年を取ってからは9時には寝たがりました。「お布団敷いて」と言うので、お布団を敷き始めると子供のように走ってきて飛び乗ったりしていました。

私はもう少し起きていたくて居間でテレビを見ていると、30分もするとノコノコ起きてきて、「なんで寝んねしないの。寝んねしようよ」と目をシパシパさせながら言います。プージャの言葉がわかるのは私と娘だけですが、なにを言っているのか私には瞬時に理解できました。

そんなことで私は10時にはお布団に入るのが習慣になってしまいました。本を読もうとすると手で本を除けて、「撫でて」と要求します。撫でて上げるとお返しに私の頬も撫でてくれます。毎日、毎晩のことで、それは私達の入眠儀式になりました。

彼女がいなくなって寂しくてしかたなかった日々のこと、カラスのクロベエがベランダから居間を覗き込み、「カアカア」と鳴きました。私はベランダに出て「プージャはもういないの」と言いながらまた泣きました。それでもクロベエは毎日やってきました。私もパンやクッキーを上げました。

クロベエの訪問がいつしか私の慰めになっていました。
 

プージャがいなくなって、私は寝室を二階に移しました。
プージャは5才の時、事故にあって後ろ足をなくしてしまいましたので、階段の昇り降りができないため、一階の和室を寝室にしたのです。

でも、彼女がいなくなってからも、私は夜中に突然、プージャの鳴き声を聞いて飛び起きたり、足音が聞こえたり、一晩中その気配で眠ることができず、とうとう寝室を換えることにしたのです。

今では、クロベエは私がどこに寝ているか知っていて、朝7時に寝室の屋根をくちばしでつつきます。ドアをノックされたような音に一人暮らしの私はびっくりして飛び起きてしまいます。

下に降りてベランダの戸を開けて「クロー」と呼ぶと屋根からバサバサと音をさせて降りてきます。ちぎったパン切れ二個を投げてあげます。それがクロベエの朝ごはん。それからは一日どこかへ出かけていきます。

今朝は珍しくクロベエに起こされませんでした。姿も見えません。どうしたのかと見回すと高い木の上にノスリという鷹の一種が止まっていました。クロベエには天敵かもしれませんが、肉食のすばらしく立派な鷹です。飛び立つときは空気を切る翼の音がブンブンと威勢よく聞こえてきます。

そんなわけで今朝は少々朝寝坊。日曜日だし、と毎日が日曜日の私なのになんとなく軽い罪悪感から言い訳しつつコーヒーを入れ、クッキーをかじりながらぼんやり朝の森を眺め、一日が始まります。

きっと今日の夕方にはお腹をすかせたクロベエが戻ってくるはず。スーパーで一斤78円のパンを買い置きしてあります。私の夕ご飯も今夜はジャガイモのサラダとツナサンド。クロベエと分けあって食べることにします。
 

2018/01/14 高瀬千図

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