2018/04/08
森での過ごし方

冬の八ヶ岳

平成30年3月某日
八ヶ岳西南麓。森の中に暮らしているとだんだん都会が苦手になる。空気がまず違う。雪の朝の空気はほんとに甘い。春は春で通りすがりに花の香。雑多な匂いがないので、嗅覚が鋭敏になるのかもしれない。

都会ではアロマの香りすら飛ぶ。嗅覚が鈍くなるのか、空気が化学反応を起こしているのか分からない。鼻は鈍感ですぐに匂いに慣れてしまうにしてもこれは不思議。

それに都会は音だらけ。車、人声、お店から流れる音楽、しかもそれが店ごとにちがう。時に大音量。うっかり耳を無防備にすると脳がぐちゃぐちゃになる。

新宿の西口に出た。会合に出るため。で、雑多な音と臭い空気と人の群れと、脳がぐちゃぐちゃになりそうな私は潜水夫の気分で歩く。できるだけ息をしない。できるだけ耳を塞ぐ。ああ、早く森に帰りたい、そればっかり考えている。

森に帰る。空気をお腹いっぱい吸う。ああ、木のにおい、水の匂い。バッハの無伴奏チェロをかける。ヨーヨー・マ。雨の音が音楽になる。夜空の星も音楽になる。

という夜もあるけど、今は Adeleアデル にはまっている。彼女の豊かなハスキーな声がなんとも心地よい。アルバム第二弾はダンス・ミュージック。ひとりで踊っている。いい運動になる。
 

ただし、踊ってばかりもいられなくて、時には時間をもてあます。

テレビは面白くもなく騒がしい。まるでタレントの失業対策かと言いたくなる。NHKは視聴料で成り立っているのに、民放のまねばかりしている。BSのドキュメンタリーが唯一の慰め。それもない日、再々再放送の時など困る。もう何度も観た。先がどうなるのかも覚えている。

そんな日は、目が悪くて、夜、読書のできない私にはつらい。

手持ちのDVDも何回観たことか。すきな映画は限られているし、ヴィデオ屋までは車で25分、よほど観たいものがないかぎり出かけて行く気にはならない。しかもこの頃はバカっぽい恋バナか、CGだらけのSF、悲劇的未来を題材にしてまるで明日世界が崩壊する、宇宙人が攻めてくる的な映画が多い。しかも暴力的。アメリカ映画はとくにものを壊す、人を殺しすぎる。

人間をきちんと描いたものは限られていて、誰がこんなものに制作費を出したのかと腹が立ってくる作品多数。プロデューサーがお金は集められるが、センスがないか、あまりに低俗な奴なのか、とほぼ八つ当たり的気分になる。
 

今も日本映画で大好きなのは『リトル フォレスト』、『海街ダイアリー』リアルな感覚が伝わってくるし、出演者がとても自然体。監督の力量を見せつけられる。日常がさりげなく、鮮やかに描かれていて、何度観ても飽きない。人間がいとおしくなる。
 

それで、好きな映画を何度も観ているというわけにもいかない時、長いこと忘れていた編み物を始めた。ドイツ製のきれいな色使いの毛糸をつかってドイツ人の京都大学の先生が編んでみせる番組をテレビで観て、もうじっとしていられなくなって、ネットで注文した。編んではまわりの友人にマフラーをプレゼントしている。でも、時に、はた迷惑かもと思わないではない。

原村は冬が長く、地面が凍っていてなかなか溶けない。村で仲良くなった兄弟にも手編みのマフラーをプレゼントした。このときは本人の好みの色を聞いて色使いの相談もした。我が家にくるときには三人とも私の編んだマフラーをしてくる。彼らなりの気遣い。

ただ、編み物は始めたら最後、なかなか止められない。とりとめのないことを考えながら、ひたすら編んでいる。その間はきっと脳がお休み状態なのだろう。手が痛くなっても、目がしょぼついても止められない。どこか中毒症状に近い。

2018/04/08 高瀬千図

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