2018/05/11
人として礼儀を尽くしなさい

チューリップ

平成30年5月某日
セクハラの続き。セクハラのもっとも困ったところは、セクハラをやっている本人にその自覚がないこと。

こればかりはいくら高等教育を受けても何の効果もない。それまでは同じことをしても、とがめられなかっただけか、一般の女性と、男性にお酒を飲ませる仕事の女性との区別がつかないのか、よく分からない。お酒を飲ませる仕事だからセクハラしてもいいという話ではない。念のため。

あるパーティで、というほどのものではないが、作家の会合で、たまたま私が某有名作家の隣の席に座ることになった。まあ文壇でも大御所に入るのかもしれないが、残念ながらその作家の作品を私は一度も読んだことがない。

そのとき、別の作家が私のそばにやってきて耳打ちした。「○○先生の隣に座る栄誉にあずかったのだから、ちゃんと接待しなさいよ」と。

悪気はなかったと承知している。
しかし、私はそんなことをしに来たのではない。それに一応対等な立場でこの会合に出ているのだ。それを接待しろ、だと?バカもほどほどにして欲しい。ほんとに腹が立った。
 

もっと言うと、私は普段からお酌をしたことがない。飲みたければかってに飲めばいい。それに一応、欧米ではお酌は男の仕事と決まっている。女が男のグラスにワインをつぐなんてことは金輪際許されることではない。みっともない。

女にそんなことをさせる男は社会的落伍者か教養のない、救いようもないバカなのだ。

私が育った家でも父は決して娘にそんなことはさせなかった。いつも父が注いでくれた。もっと飲みたければ自分で注いだ。父は食卓を囲んで議論をするのが好きで、政治だの文学だのいろいろみんなで話したいだけ話した。母のグラスにも父がビールを注いでいた。
 

ある日、一人で行った取材旅行で、夜、ホテルのバーに行った。寝る前に少し飲んで気分をほぐしたかった。

しばらくして、三つ離れた席から、一見紳士風・・・が話しかけてきた。

その男性は自分の出身大学を言い(と、ここでもうバカか、と内心思ったのだが、失礼があってはいけないので、そうですかぁ、と気のない相槌を打った)、大手電力会社を退職して、自分の会社を立ち上げ、今は会長をしていると聞きもしないのに話した。

電力会社、と聞いて、私は日本のエネルギー問題だの、経済だのについて質問した。しばし話した後、一見紳士風はいきなり私の隣に席を移してきた。キモイ、と思ったがこらえた。

次の瞬間、「ねえ、セックスはどうしてるの。結構、あんた、魅力的じゃない」と来た。

キレタ。
「・・・なんとまあ、無礼なことをそうもぬけぬけとおっしゃいますね」と思いつつ、「ボーイさん、このオジサン、酔っ払ったみたいだから、お開きにします。お勘定してください」と私はいつもは出さない大声を出した。

せっかくの時間が台無しになった。
お酒がまずくなった。

「テメエの顔、鏡に映してみろっ」と思ったが、醜男ぶおとこに醜男とわざわざ言うのもお節介なので、ものすごくバカにした冷たい目で睨みつけてやった。

それにいい男というのは生来せいらいそのような無礼を働かないものだ。

私の声にほかの客が振り返ったのにも気づいていた。ついでに私はほかの客も睨みつけていた気がする。はなはだ迷惑な話だと思うが、いちばん迷惑したのは私だ。

で、オッサンはすごすごと帰っていった。
この一件は二ヶ月たっても腹が立ち続けた。ほんとのことを言えば、「あんたね、即、絞首刑」と言ってやりたかった。今も思い出すと腹が立つ。なんというバカ野郎なんだろう。

なんか紳士教育のためのスパルタ式強化合宿でもやったほうがいいのではなかろうか。
 

それに、セクハラをやる奴は尊敬できる母親に育てられていないのではなかろうか。父親も同様、尊敬に値しない。そんな意味では犠牲者かもしれないが、ことはそれほど複雑なことではない。相手が女だろうと子供だろう年寄りだろうと、きちんと人として礼儀を尽くしなさい、ということに過ぎない。その人間の知性に関わることなのだ。
 

2018/05/11 高瀬千図

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