それでも人生にイエスと言う

著者:ヴィクトール・フランクル
出版社:春秋社
 

ヴィクトール・フランクルは、私のもっとも尊敬する精神科医のひとりです。

ユダヤ系ドイツ人であったフランクルは、第二次大戦中、四つの強制収容所を転々としました。ヒットラー配下のナチスの弾圧を逃れて周囲の人々が次々にアメリカに亡命する中、彼は老いた両親を置き去りにすることができませんでした。当然ながら彼は老いた両親とともに強制収容所に送られ、そこで父親は餓死し、母親はガス室に送られて亡くなりました。

かつて首相の側近まで勤め、誇り高く知性にあふれていた父親が収容所のなかでゴミ箱を漁る姿を見かけた時ほどつらいことはなかったと、後にフランクルは述べています。
 

ナチスによってユダヤ人だというだけで、幼い子供達までが収容所に送られ、ガス室で殺されました。フランクルは強制労働を課せられ、悲惨な収容所生活を送ります。そして最後に収容されたところは中でももっとも悪名高いアウシュヴィッツでした。

強制収容所という想像を絶する過酷な世界、魂の蹂躙と殺戮、人間存在の尊厳が人種差別という憎悪の中で無残に踏みにじられていく日々。それでもなお『人生にイエスと言おう』と歌った人々。
 

この本のタイトルはその歌から取られたものです。そして、戦争終結後、収容所から出て最初に招かれた講演でフランクルが開口一番語った言葉が衝撃的でした。

「どうかドイツ人を責めないでください。すべては個の問題なのです」と。
 

「人間の尊厳と生命の価値の剥奪」のなかで苦悩から光へと、自らの人生を通して語る精神科医フランクルの心の軌跡、実際の体験であるだけにその一語一語が深く私たちの心を揺さぶり、深い感動へと誘います。

この本は『生きることの真実の意味』が見えてくる私にとって大切な一冊となっています。

他にもお勧めしたいのは同じ著者による『「生きる意味」を求めて』『宿命を超えて、自己を超えて』など。いずれも大いなる心の糧となる、真の知性を目覚めさせるすぐれた内容になっています。