その名にちなんで

著者:ジュンパ・ラヒリ
出版社:新潮社
 

ラヒリは1967年ロンドン生まれ。両親はどちらもカルカッタ出身。インド系女流作家です。

デビュー短編集、『停電の夜に』では、ヘミングウェイ賞、ニューヨーカー賞、ピューリッツァー賞を受賞するという華々しい経歴の持ち主です。

『その名にちなんで』は長編小説ですが、すぐに映画化され、高い評価を受けています。
 

描かれているのは単身アメリカに渡った父とアメリカで生まれ育った息子、この二世代間の葛藤が縦糸となり、父と母、子供たち、恋人たちのそれぞれの愛のかたちが横糸となって、一枚の見事なタペストリーのようにそれぞれの日々が丁寧に描き出されていきます。
 

とくにここに登場する父親がすばらしい。

鉄道事故で九死に一生を得た父を救ったのは手に持っていたゴーゴリの『外套』。そのため父親はアメリカで生まれた息子をゴーゴリと名付けます。自分の名のいわれを息子は長い間知らされていませんでした。

インドびいきの、しかもカルカッタ(現在のコルカタ)が大好きな私としては、最初から最後まで息もつかずに読んでしまいました。

ラヒリの観察眼の鋭さと辛口だけれど深い愛を感じさせる表現は非常に魅力的です。他に推薦したい彼女の作品に、『停電の夜に』、『見知らぬ場所』などがあります。