魅せられたる魂

著者:ロマン・ロラン
出版社:みすず書房
 

私の人生にいちばん最初に、いちばん強く影響を与えた本がこの『魅せられたる魂』でした。

初めて読んだのは二十歳の時。まだこの日本では女性に対して社会的な抑圧が強いときでしたから、私は主人公のアンネットの生き方に深い共感と衝撃を受けました。

嘘も偽善もない、真摯に命と向き合って真実を生きようとするアンネット。新しくて美しい女性の生き方に私は目を見張りました。

貴族の娘としてその身分にふさわしい申し分のない青年と婚約していたにもかかわらず、アンネットはいつしか心のどこからか聞こえてくる声に耳を塞ぐことができなくなります。
 

「彼をほんとうは愛していない」

そう気づいたアンネットは、婚約を破棄、宿った命をひとりで産み育てる決心をします。十九世紀、今とはちがって宗教的にも倫理的にも社会には女性に対するたくさんの差別や偏見があった時代です。

しかし、今の時代を生きる女性たちにも真実を生きたいというアンネットのひたむきさ、気高さは大いに共感できると思います。

女性であることの誇りと勇気を思い出させてくれる一冊です。