天の曳航(1988年8月)

出版社:講談社
 

『風の家』では絶望のはてに母子心中をはかった女性をとおして『女性性の陰の部分』を描きました。それだけに、今度はどうしても『女性性の陽の部分』を描かずにはいられませんでした。この小説の主人公である知恵は、命があふれかえるような生きる力に満ちた女性です。
 

結婚にしがみつくこともせず、愛した男の子供をひとりで産み、育て、そしてまた恋をし、破れ、たおやかで美しい命のままに生きていく、私には女神のような女性です。

実際、私自身もまた事情があって未婚のまま二人の子供の母となりました。今でこそあえて未婚の母を選ぶ人も出て来ましたが、当時は異端。偏見がまかり通っていてかなり苦しい思いをしました。

そんな私にとって、この知恵という女性はまさに理想。女性性の持つたくましさと美しさとあふれんばかりの命と愛を具現化したような存在です。

書き終わったころにはすっかり私は本来の元気を取り戻していました。
 

『風の家』と『天の曳航』この二つの作品は一対をなす陰と陽、両面から見た女性性の物語です。

 

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