ここはもう秋真っ盛り。八ヶ岳農場のリンゴがすっかり赤くなりました。
最近観た映画でとても感動したのは森淳一監督の『リトル フォレスト』。
主演は橋本愛さん。桐島カレンさんがその母親役で出演しています。映画のタイトル通り、小森という東北の山間の寒村が舞台になっていて、母と娘はその村のさらに山奥の一軒家で暮らしています。
集落の小さなスーパーまで自転車で30分、坂道を下ります。帰りは上り坂で1時間半。汗だくで戻ってきます。
まことに不便なことだろうと人は思うでしょうが、意に反してほんとうに豊かな生活がそこにはあります。汗ばんだ肌に縁側の戸を開けて風を入れ、全身で森から吹く風を浴びる主人公。
春には稲を植え、秋には刈り取り、ジャムどころかウースター・ソースまで手作り、カレーにはチャパティを焼き、パンはイーストで発酵させてストーブの
夏から秋、冬から春へと変わる四季とともにある暮らし。
その暮らしがとてもリアルに、しかも抑制のきいた演出で描かれています。ここ八ヶ岳の村外れ、森のなかで暮らしている私は、そのあまりのリアリティに唸ってしまいました。
「これってほとんど以前の私達の暮らしそのまんまだよね」娘が言いました。
「あそこまでではないけど、森との関係はほんとにそのまんまね」と私。
森は生きていて(当然ですが)、春には春の楽しみが用意されています。
春、まずはフキノトウ、天ぷらと
初夏にはたくさんのワラビ、高地なのでいつまでも収穫できます。そして自分の畑で採れるジャガイモ。掘ってすぐに蒸し、塩とオリーブオイルでいただきます。
また豊富な夏野菜で作るパスタ。安いうちにどっさり買い込んだ新鮮なトマトにドライトマト、缶詰のトマトを加え、三種のトマトで作るソースは味が深く芳醇です。
そして庭先のバジルで作るバジルソース。塩とオリーブオイルだけ足してペーストにし、小瓶に分けて冷凍しておきます。使う時にさらにそれにパルメジャーノとまたオリーブオイルをたっぷり加えます。
緑の森の中に潜んでいる野苺、アケビ、グミの実。どこに何があるのか見つけておいて、その季節になると収穫に行く、ほんとうにワクワクする体験です。
秋には栗がいたるところで実ります。その山栗で作る渋皮煮はこれがまた絶品。いささか贅沢ですが、私は甘みにはメープルシロップを使います。どちらも木の恵み。相性は抜群です。
これは海辺でも同様で、磯のどこに何がいるのか、海で育った人間にはわかります。海藻、貝、魚の種類、牡蠣や岩場に隠れている蟹。防波堤から釣れるメゴチは唐揚げにするとこんなにおいしいものはありません。骨ごと食べられます。キスはおつくりに、蟹は塩ゆでにしていただきます。
海も森も目さえ持っていれば、いつでも気前よくいろいろなものを提供してくれます。そんなほんとうの豊かさをできるだけ失いたくないと思います。小さな子どもたちにもぜひ体験させたいし、自然の中で過ごす知恵を身につけることはどんな教育よりも感性を育てる有効な方法だからです。
食べる話ばかりになりましたが、食の豊かさこそ感性を養うもっとも優れた方法であることに間違いはないし、子育てでは最もわかりやすい愛情の伝え方だと思う私には『食』こそまさにそのまま『命の喜び』につながるものだと信じています。
映画『リトル フォレスト』では、そんな日々の生活が、季節につれて変化し続ける森の風景とともに静かに描き出されていきます。人の暮らしを豊かにしてくれるのは知恵なのだと思い出させてくれる映画です。ぜひぜひ一度ご覧ください。
2017/10/06 高瀬千図拝
「人間の体は食べたものでできている」という言葉を思い出します。
ここに書かれているような生活をしていたら自然と共存し、感性豊かな暮らしができそうな気がします。