2012/02
住んでみてわかる喜び

子育てをする皇帝ペンギン

今年は例年になく寒い冬になっています。我が家の庭においた温度計ではこのところ朝の気温は連日氷点下18度。寒冷地とはいえこれほど冷え込むことは滅多にありません。

先日はここに住むようになってはじめてダイアモンド・ダストを目にしました。これは空気中の水分が凍ってできるものですが、朝日のなかをきらきらと小さな金色の光が舞っていました。

朝日が当たると屋根についたツララはまるでクリスタルのように小さな青やオレンジ色の光を放ちます。

それに雪の上にはさまざまな動物の足跡。狐、兎、鹿、それにリス。その足跡で昨夜の訪問者が分かります。

満月の夜、雪原に落ちる月光のまぶしさ、星々のきらめき。

ここは住んでみなければ決して見ることのない小さな奇跡に満ちています。
確かに高齢者には寒さはつらいものですし、雪掻きや薪運びなどときには重労働を強いられますが、それにも増して澄み切った空気と光の美しさはなにものにも代え難いものがあります。

 

先日、この冬の夜長、食事会があり誘ってくださる方があって私もはじめて参加しました。空気も森も道路もみんな凍りついている時間、世話役の方のお家に大勢が集まってにぎやかなパーティになりました。

たくさん食べて、たくさんしゃべって、たくさん笑って・・・。
それも初めて会う人、何度か見かけた人、しょっちゅう一緒に遊んでいる人など、それぞれにそれぞれの距離があったのでしょうが、帰るころにはみんなすっかり打ち解けて上機嫌。東京に住んでいた頃には想像もつかないことです。

「ここは一人では大変だけど、助け合って暮らすならほんとうに素敵なところです」と友人は言います。

たまに体調が悪いときがあると、誰から聞いたのか「お買い物、してきましょうか」と友だちの誰かが電話をくれます。

先日もさいたまの仕事から戻ってみると、我が家までの細い森の道はきれいに除雪がしてあり、重い薪はベランダにきれいに積み上げてありました。誰がやってくれたのだろうと思いつつ、ああきっとあの人だ、と思ってお礼の電話を掛けました。さりげないほんとのやさしさ。「やっておいてあげたよ」なんて誰も言いません。

 

「寒い時期、少し温かなところで過ごせばいいのに」と友人の一人が心配してくれましたが、私はなんとかなる間はずっとここで冬を過ごしたいと思っています。

 

掲載した写真は世界でもっとも寒い南極の冬、しかも海岸から100キロも奥のブリザードが吹き荒れる地で子育てをする皇帝ペンギンの姿です。

子供を見下ろしているのはお父さんペンギン。
なんて過酷なところで子育てをするのだろうと思いながらも、もしかしたら彼らには彼らにしか分からない何かとてつもなく素晴らしいものがそこに見えているのかもしれない、と思ったりしています。

フランスのドキュメンタリー映画『皇帝ペンギン』は『命』というものへの畏敬と深い感動に満ちた私の大好きな映画のひとつです。

2012/02/06 高瀬千図拝

 

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