この写真は我が家の庭に咲く小梨の花です。
庭には野生の小梨の木が5本あり、どれも見事な花を咲かせます。とくに満月の夜はその甘い香りも手伝って幻想的な美しさです。小梨はズミというのが本当の名のようですが、花の後に小さな酸っぱい実をつけるので、小梨と呼ばれています。
花が満開になるのは5月20日ごろ。ここでは桜が終わった後、この花が森を彩ります。
八ヶ岳に住むようになって10年、この小梨の木もずいぶん大きくなりました。初めのころはなんとなく姿の冴えない木でしたが、今となっては我が家の庭の主役的な存在になっています。
ここで暮らすようになってずいぶんたくさんの植物や小鳥の名を覚えました。庭に下りてくる小鳥の種類は10種を超え、春になるとフキノトウに始まってタラの芽やコシアブラ、森のアスパラガスといわれるシオデ、ワラビなど、野草を摘むのが散歩のときの楽しみになります。
そんな森の生活を離れて、今は時々富山を訪れています。
次女が暮らす街は山も海も近く、豊かな水に恵まれているせいか、人の話し方もたたずまいもどことなくおっとりとしています。視線が合ったとき、微笑が返ってくるような土地はめったにあるものではありません。
金沢や京都が近いこともあり、文化的には関西圏に属していて、人あたりの柔らかさ、ほどほどの距離感をたもちつつ示される親切、控えめでやさしい言葉つきなど、初めての土地にもかかわらず私には違和感がありません。どの家もよく手入れされ、庭の隅々まで花が植えられています。
一方、雪をいただく立山連峰は3000m級の山が連なり、それがまっすぐに富山湾になだれ込み、その深さはなんと1000mに達するとのこと。まだ見る機会はありませんが、海底にはかつて地殻変動で沈んだブナの森がそのまま残っていて、魚たちの住処、漁礁となっているとのことでした。
とはいえ、立山に近づくのは、急峻な八ヶ岳ほど難しくありません。
『おおかみこどもの雨と雪』でも描かれた上市町、主人公の雨がオオカミとして生きる決意をしたあの称名滝までも街から車で20分くらいです。
美観を損ねることを嫌う土地のようで、そこもまた私はとても気に入っています。山間に設けられた駐車場に車を置いて、なだらかな坂道をゆっくり上っていくと、目の前に落差350mの見事な滝が姿を現します。
その間も道路はきちんと整えられていて、お土産屋や宣伝めいたものは一切ありません。観光地にありがちな、どことなくあさましい人間の欲の姿がどこにも見えないのです。
日本海は真冬を除けば、実はとても静かでやさしい海です。入り江では小さな子供でも泳ぐことができるところがたくさんあります。私の故郷と違う点は、木々に覆われた山や森が海の母であり、海の豊かさは森の豊かさがもたらすことを知っている土地であること。
ここでは護岸工事やダムで川を死なせるようなことを一切しませんでした。自然のままの姿でとうとうと流れる神通川、五箇山から湧きだした水が海まで続く庄川。
私の好きな日本、大好きな風景がここにはあります。
2013/05/06 高瀬千図拝