10月2日の朝、『黎明』の著者、葦原瑞穂氏が亡くなりました。
スピードの出しすぎだったのか、ハンドル操作を誤り、崖に激突、単独事故でした。車は大破し、胸を強打したことが直接の死因だったとのことでした。あまりに突然のことでもあり、いまだその死を受け入れることができずにいます。
共通の友人から連絡を受けたものの、いったいどうなっているのか、今どこにご遺体はあるのか、何もわからず、その日は一日中何も手につかず、呆然と過ごしました。警察の調べたところ遺体の引き取り手がないことがわかり、北杜市が引き取って荼毘にふすことになりました。
通夜も葬儀もない、あの方らしい最期だと思いつつも、まだこれからもたくさんの人々の目覚めのために働いていただかなくてはならない方でした。自ら招いた事故とはいえ、あまりに残念でなりません。
葬儀に立ち会えたのは生前親しかった10人だけ。市からの指示でした。お骨を拾うことも規則とかでできませんでした。たくさんの花を抱えて葬儀場に行きました。棺の中をせめて花で埋めたかったからです。
彼はこの物質世界、権力に固執する人々、お金と成功、そんな世界に嫌気がさしていたのでしょう。今世はほんとに苦しかった、友人に漏らした言葉です。もしかしたら無意識の自殺、そんな考えが頭をよぎります。
世界を変えたければ、自らの心が真理に目覚める以外に方法はない、と彼も私も思っていました。
人の心に争う心が微塵もなく、それが完全に消滅したとき、世界は一日にして平和になるというのは真実です。まさにそれを実践した方でもありました。それにまたその知識の広さと深さは底知れないものがあり、何に対しても全く偏見のない方でもありました。
ワインが大好きで、時々「千図さんの好きなシャンベルタンが手に入ったからワインパーティやろうよ」と言ってきたり、とにかく食べることが大好きで、酒豪でもありました。
私にとって彼は魂の兄弟のような人でした。私のすべてを理解してくださっていました。余計なことは語らず、いつも私の手料理と彼が持ってくるおいしいワインやシャンパンを仲間を集めて楽しみました。八ヶ岳に戻り、またいつでも会えると思っていました。それが突然の訃報。
私のような凡庸な人間には聞こえもせず、見ることもできない微細なことまで彼は感じ取り、思考し、受容する方でした。虚脱状態の今、何をどうすればいいのか。
ただ今は、彼はきっと死後の世界を見に出かけたのだと思っています。そしてまた帰ってくるはずだと。仕事はまだ終わっていないのですから。
「僕たちの仕事は長丁場になるから、千図さん、決して無理をしてはだめだよ」そんな彼の言葉を思い出しています。
2016/10/06 高瀬千図拝