平成30年4月某日
一日雨。ジャガイモの植え付けができない。
寒い。腹が立つ。
昔、世界一おいしいたくわんを漬けるおばあちゃんがいた。国分寺の方からリヤカーを引いて自分が作った野菜を売りに来た。気持ちのいいほがらかな人。おばあちゃんの
一切れ、口に入れるとその香りとおいしさにうっとりした。
ある雨の日、家のチャイムが鳴った。出てみると外に傘をさした野菜売りのおばあちゃんが立っていた。悲しそうな顔をしていた。
「入って、お茶でも入れるから」
お婆ちゃんは「悪いね~」と言いながら入ってきた。
「どうしたの」
「嫁がさあ、臭いってさあ、タクワンの
お婆ちゃんは涙ながらに話した。
私は善玉菌のタクワンの糠が下水の悪玉菌と必死に戦う姿が目に浮かんだ。多勢に無勢、やがてタクワン善玉菌の部隊は全滅。下水のドブに飲まれていく。凄惨な場面。
あのタクワンは世界文化遺産に登録して欲しいほどすばらしい乳酸菌が育っていた。お婆ちゃんは50年近くその糠床の乳酸菌を育ててきたのだ。オリジナルのお婆ちゃん独自の乳酸菌はきっと生物学的にものすごい人類の遺産的乳酸菌だったと信じている。
2018/04/22 高瀬千図