平成30年5月某日
私はどうもいつも怒ってばかりいる人間に思われるかもしれないと、このところの自分の書いたものを見て思った。
そんなことはない。
まともな人とは仲良しで、村のおじさん達とも友だち付き合いをしている。で、いろいろ教えてくれる。
先祖代々、ここに200年も住んでいる人たちは、ただの雑木林だった森を開墾して、大木を倒して抜いて、落ち葉をみんなで掻き集めて、機械もない時代に手仕事というか肉体労働で畑を作ってきたのだ。
今はすばらしいセロリの畑が広がる。車で通ると風はセロリの匂いがする。セロリ長者がいると聞いた。労働が報われたのだ、と私までなんとなく嬉しくなる。
それに何を植えればいいのかも教えてくれる。自分で育てたうるち米で、自分でついた餅を持ってきてくれたりもする。
「東京から来た人が、木を切るなんて~、とか言うて、あれは困る」とおじさんが言った。
「それってすごい勘違い。森は間伐しないと陰気くさい荒れた森になるのにね」と私。
「こないだも家建てた人が庭にぐるっとあった松を切るな、これがいいんだ言うて、切らせてくれなかっただで、松は根が浅くて嵐が来るとすぐ倒れるけ、危ないというても聞いてはくれん。これがいいんだ、その良さが分かりませんか、と言うて、絶対に松を切るなと言われた」
そこまで言っておじさんはくすくす笑った。
「で・・・、こないだの嵐で松がゆっさゆっさ揺れて、その人の家、えらい揺れると思うとったら、朝見たら、ベランダが松といっしょに動いて家から離れていっとったと。20㎝」
松がゆっさゆっさと根を揺らして家から遠ざかっていく、どういうわけかベランダまで松についていった景色があまりに可笑しくて私は笑い出した。
「で、どうなったの」
「そいで間伐してくれと言うてきたけど、家建てた後は機械がはいらねえ。クレーンがいる。そいで費用は一本で20万になると言うたら、唸っとった。松は四、五本あった」
それ以後のことは聞いていない。おじさんと、嵐の中、ベランダが松と一緒に家から離れていく景色がおかしくて、二人でお腹が痛くなるほど笑った。
2018/05/12 高瀬千図